ヤングセミナー

【レポート】人間塾2024年度第6回ヤングセミナー

2024年7月2日

去る2024年6月20日に第6回目となるヤングセミナーを開催しました。

今回の大きなテーマは、エドワード・サイード(コロンビア大学教授・故人)の国際社会を見る価値観についてでした。以前、人間塾の修了生が文学評論を専門とするサイードと高名な音楽家であるバレンボイムが共に提唱した「社会と音楽」のかかわりについて、私に教えてくれる機会がありました。それ以来、私はサイードに大きな興味を持つようになり、今回のセミナーで塾生たちに紹介しました。

今回のレポーターは第12期生の佐々木果音です、是非ご一読ください。

塾長・仲野好重

人間塾 第12期生 佐々木果音
(国際基督教大学大学院進学予定)

去る6月20日、第6回ヤングセミナーが開催されました。芒種から夏至へと移り変わり、季節の変わり目であるためか体調不良を訴える塾生もいて、皆が互いに労り合う中、セミナーが始まりました。

はじめに、仲野塾長から『人間塾ノオト』という小さな冊子をいただきました。この冊子はコピーライター・榎本宏様とデザイナー・岡野成寿様が、塾長の講演会や書籍の中にある沢山の言葉の中から特に心に残った言葉を選び、若い人々に伝えたいという思いでまとめてくださったものです。ページをめくると、自分と向き合うための10個の質問、塾長の言葉や修了生の言葉が並んでいます。『人間塾ノオト』は人間塾の学びにおいて基となるものが詰まった1冊です。この冊子を通じて、私たち塾生が向き合い、考えていることを周りの方々と分かち合い、未来の塾生にバトンをつなげてゆきたいと強く思いました。

人間塾2024年度ヤングセミナー:『人間塾ノオト』を手に取る

『人間塾ノオト』を手に取る

次に、塾長はドイツのベルリンにあるバレンボイム・サイード・アカデミーという音楽院について紹介してくださいました。この学校はイスラエル人のダニエル・バレンボイム(1942~)と、パレスチナ人のエドワード・ワディ・サイード(1935~2003)によって創立された音楽院です。バレンボイムは高名なピアニストであり指揮者、サイードは英文学の研究者です。2人による音楽院は、音楽と人文学や社会科学を課程の柱に据えており、2016年の開校以来、中東や北アフリカを中心に世界各国から音楽を志す学生が集っています。この学校の前身は、政治的な対立を続けるイスラエル、ヨルダン、シリアなどアラブ諸国の学生を集めて、1999年に結成されたオーケストラ(ウエスト・イースト・ディヴァイン・オーケストラ)であり、その理念は音楽院設立後の現在も受け継がれています。

続いて塾長は、エドワード・サイードについてもお話をしてくださいました。サイードはキリスト教徒のパレスチナ人としてエルサレムに生まれます。後にエジプト・カイロ、レバノンで暮らし、15歳の時に米国に渡って、ハーヴァード大学で学びます。博士号を取得後、コロンビア大学で教鞭を取ります。そして、英文学を専門としながら、時代を踏まえ幅広く評論活動を行い、『オリエンタリズム』(1978)を出版します。
この著作の中でサイードは、「東洋(オリエント)」を後進的であると見なす「西洋」を中心とする見方・考え方を「オリエンタリズム」と表現し、これが「東洋」に対する支配を正当化してきたと指摘しています。

人間塾2024年度ヤングセミナー:質問で理解が深まる

質問で理解が深まる

「オリエント」は「東洋」を示す言葉で、中東やインド、中国などアジアを指し、私たちが住む日本はその中で最も東(極東)に位置しています。「西洋人はオリエントに魅力を感じる」などと言われることがありますが、これは文化として尊重されているのではなく、西洋中心主義の中で、「自分たちとは異なる魅惑的なエキゾチックな雰囲気がある」などと評価されていることを意味します。この「西洋」と「東洋」という区分は、「西洋」の価値観や文化の上につくられており、自然発生的に存在するものではありません。したがって、私たちがこの区分に縛られる必要はなく、この区分によって互いを理解できないということもないはずなのです。現代を生きる私たちには、この「西洋」や「東洋」という区分を積極的に乗り越えてゆくことが求められているように思います。

私たち人間には、ものごとを対立構造の中で捉える傾向があります。時には、敢えて二項対立に持ち込むということさえします。日本社会、国際社会から対立がなくならないのはこのためだと考えられます。しかし同時に、私たちは対立を乗り越える「力」を有しています。対立し続けているイスラエルとパレスチナにルーツを持つバレンボイムとサイードが、この世界を音楽でどう変えてゆくのかを考え、学ぶ場として音楽院を創立したように、共に歩み寄り、社会に働きかけることが必要なのです。
一見対立しているかのように見えるものごとも、どこかでは重なり混ざり合って、融合しています。分かれることを前提に話を進めれば、ものごとは分断され、やがては対立してしまいます。しかし、共にあろうとし、共通項を探してゆけば、互いに繋がることができるのです。この意識を持って、対立が激化しゆく社会の中でも、他者とつながり、力を合わせて共に前へ進んでゆきたいと決意を改めるセミナーとなりました。



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