ヤングセミナー
【レポート】人間塾2024年度第5回ヤングセミナー
2024年6月15日
去る2024年6月6日に第5回目のヤングセミナーを開催しました。
今回は、ティヤール・ド・シャルダンの新しい進化論について話しました。シャルダンの名を知ったのは、今から45年前だったと思います。高校の倫理の授業で習ったのですが、不思議と彼の名前が脳裏から離れることはなく今まで来てしまいました。私もまだまだシャルダンについては考えを深めている最中です。しかし、塾生たちは結構ポイントをつかんでくれたようで、嬉しく感じています
今回のレポーターは第12期生の伊藤壮司です。
是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
第12期生 伊藤壮司
(千葉大学薬学部3年)
去る6月6日、夜の涼しさにも初夏の訪れを感じる中、今年度5回目となるヤングセミナーが開催されました。今回のセミナーには、人間塾のホームページを運営してくださっている勝野様と、2名の修了生の方々がお越しくださいました。普段より人数も多く活気づいている中で、セミナーは始まりました。
仲野塾長はまず、ダーウィンの「進化論」についてお話を始められました。進化論とは、生物は不変のものではなく長い時間をかけて進化したものであるという学説のことを指し、一般には科学的な見地からの話題として取り扱われます。ではこの進化論を、科学的な視点からだけではなく、人間の精神性の視点も含めて捉えるとどうなるのでしょうか。塾長は、今から約70年以上前にこの捉え方を用いて新しい進化論を唱えた人がいたとおっしゃいました。それは、ティヤール・ド・シャルダンというフランス人のイエズス会士でした。
シャルダンはイエズス会士であり、カトリックの聖職者でありながら、古生物学、考古学また地質学などを専門にしていました。宗教と科学という、対極的な二つの世界を視野に入れて物事を思考していく中で、シャルダンは独自の進化論を構築します。その内容は、「人間をモノとして例えると、現生人類の直接の祖先であるクロマニョン人以来それほど大きな進化は起きていない。これからの人間は、モノの進化ではなく脳内の精神活動において進化を遂げる」というものでした。更にシャルダンは、その進化の過程で人間の意識の「集約化」が起き、集約した意識は最終的にオメガ点という一つの到達点に行くということを提唱しました。彼は、地球上の人々の意識が集まって大きな一つの単体になるという、精神の進化論を主張したのです。
続いて、塾長は「シンギュラリティ」という言葉について説明をしてくださいました。シンギュラリティとは、人工知能(AI)の性能が人類の知能を上回る技術的特異点を意味します。ではこの特異点に達してしまった場合、人類はどうなってしまうのでしょうか。塾長は、シンギュラリティが起きた時、個人の思考や意識が収斂して一つになる可能性があるとおっしゃいました。すなわち、人工知能の発達により、近い将来私達はシャルダンが提唱したような意識の集約化を経験することになるかもしれないのです。
私はこのお話を聞いた時、個々の意識の収斂が起こる未来がそう遠くないということに驚くとともに、そのような未来が迫っている今だからこそ、自分の意識をしっかり持つことが大事であると感じました。意識の集約とは、言い換えると自分の意識と他人の意識が合わさり、統合されていくということです。自身の意識を確立していないと、私達は統合の過程で他人の意識に呑み込まれてしまい、自己を見失ってしまうかもしれません。人類が新しい進化を遂げる中でも(とはいえ、何年先の事かはわかりませんが)しっかりと自分の人生を歩むために、今自身の意識をしっかりと持たなければならないと強く思いました。
その後、「オメガ点」について塾長から説明がありました。シャルダンは、集約した意識が向かう先には「神」がいると主張しましたが、塾長は仏教の話題を引き合いに出しながら、オメガ点の先にあるものは神でも阿弥陀如来でも表現できるとおっしゃいました。その表現の一つとして、塾長は「大いなるもの」という言葉をお使いになりました。
私はこのお話を聞いた時、主観と客観について考えました。個々の意識が集約されていくと、思考における自他の境界線は徐々に曖昧になり、主観と客観は入り混じっていきます。私は、この混合がオメガ点において重要なのではないかと思いました。主観と客観が混合した中で、集まった意識を一つの方向に向けることは簡単ではありません。私は、オメガ点の先に塾長がおっしゃったような「大いなるもの」がいることで、私達の意識はオメガ点へ向かっているのではないかと感じました。このような精神の進化を認識することが、私達それぞれの意識の保持には必要です。自身の意識の行く末を念頭に置いた上で、私達は自己を確立し、生きていかなければなりません。
現在、人工知能の発達により、シャルダンが提唱したような進化論の実現が間近に迫ろうとしています。そのような中で、私達はどのように考え、どのように行動しなければならないのでしょうか。今の自分のあり方について、改めて考えるセミナーとなりました。意識の集約化が起き、主観と客観が混合した世界でも、自分を見失うことなく人生を歩んでいけるよう精進して参ります。(注:シャルダンはこのような進化は今後数十万年、あるいは100万年先に到来すると言っています)

13期生と修了生の橋沼君