ヤングセミナー
【レポート】人間塾2024年度第17回ヤングセミナー
2024年12月14日
2024年11月28日に第17回ヤングセミナーを開催いたしました。今回は、私の留学時代の恩師との話に始まり、その恩師の遺品がどっさりと私に送られてきたことを話題にしました。恩師は、長年ある哲学者について研究を続けている方でしたが、2022年10月に97歳でこの世を去りました。そして、2年経った今年の秋に、先生のご子息から先生の残された研究ノートがたくさん送られてきました。「宿題は忘れたころにやってくる」のだと実感しながら、先生の在りし日を偲んでいます。
今回のレポーターは、第12期生の若林歩花です。
是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第12期生 若林歩花
(聖心女子大学4年)
去る11月28日、第17回ヤングセミナーが行われました。今回のお話は、仲野塾長が学生時代から37年間、薫陶を受けた恩師の方のお話でした。
仲野塾長は、米国ミズーリ州セントルイスにある大学院で、ある教授に出会いました。彼は心理学者であり哲学者でした。セントルイス大学の教授として、発達心理学を教えると同時に、フランスの哲学者ジャック・マリタンについての研究をされていました。塾長によると、彼は哲学の分野においても広い知識と教養があり、大変思慮深い方だったそうです。
塾長は、この教授の元で足掛け8年間、発達心理学の博士号を取得するまで、ほぼ毎日一対一で教えを受けました。長時間にわたる研究の多くで、教授は常に当時学生だった塾長に向き合い、傍らにいてくださったというエピソードが印象的でした。勉学で大変な日々を過ごした後、博士号を取得されましたが、塾長は「学位」ではなく、それよりも「教授と過ごした日々」を価値あるものにされていたのだと、私は思いました。
教授が亡くなってから2年以上が経った先日、教授のご子息から「あなたの博士論文と、父に宛てた手紙の数々が箱の中で保管されていた」と連絡があったそうです。塾長は「私の論文と、マリタンに関する先生の資料があれば、なんでも結構ですのでいただくことはできませんでしょうか」と申し出ました。するとすぐ返信があり、「多くは父の手書きの原稿で、私には理解ができませんが、父の一貫性のない文章を見た時、あなたの顔が思い浮かびました。この代物を理解できるのは、この世にあなた一人だけです。ありがとう」と返事があったそうです。実はこの教授の授業は学生たちにとって、大変難易度が高かったために、当時受講する学生は少なかったそうです。しかし塾長は、一生懸命授業について行ったお陰で、哲学的な視野が広がったとお話しされました。そして、この教授と多くの時間を共にした塾長にとって、アメリカから届いた膨大な資料は、教授の頭脳の中を探検する貴重な地図のように思え、これから一つ一つ読むことを考えているとおしゃっていました。
学生時代に塾長は思いがけない出会いがあり、それから長い間、丁寧で深い繋がりを大切にされてきたのだと私は感じました。目の前のことに情熱を持って取り組まれていたからこそ、教授もそれに応えるように塾長との関係を途絶えずに、気にかけてこられたのだと思います。私もその時々の人との出会いに常に感謝し、大事にしていきたいと思いました。
もう一つのお話しは、なぜ私たちは学ぶのか、という問いについてでした。学んだことは、社会へ惜しみなく還元していく必要があります。そして今を生きる人は、「次世代を担う子どもたち」のために、「共同体」を残していく義務があります。人間らしいコミュニケーションを通じて作られる共同体こそが、教育の最大の受益者です。人間塾に通う学生は、より良い社会を作ろうという思いを抱き、それぞれの分野で燃える火の玉のように「一丸」となって挑戦をし続けなさいと、塾長は話してくださいました。
私は、時に自分にばかりベクトルが向いてしまうことがあります。しかし、やはり私たち人間は他者との関わりを、いつどんな時も忘れてはいけないことを学びました。また身の回りにいる人たちだけでなく、将来、実際に出会うことのない世代の人々のことも思って行動をするという新たな視座を持てたセミナーとなりました。