ヤングセミナー
【レポート】人間塾2023年度第21回ヤングセミナー
2024年2月20日
2024年2月8日に、第21回ヤングセミナーを開催しました。
この日は、私の創作した朗読劇について、塾生たちが感想を述べ合ってくれました。その中で、人生の「軸」を大切に生きなくてはならないという意見が多く出されました。
今回のレポーターは、第12期生の貞包祥汰です、是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第12期生 貞包祥汰
(東京外国語大学 国際社会学部 4年)
2月8日に第21回のヤングセミナーが開催されました。
今回は、ある朗読劇をテーマに意見が交わされました。
去る2月3日(土)と4日(日)に、千代田区にある紀尾井小ホールにて、朗読とピアノ演奏が融合した朗読劇「手紙」が上演されました。本作は昨年2月から兵庫県尼崎市を皮切りに、香川県小豆島、姫路市など各地で上演され、先日2月4日をもって千秋楽を迎えました。
本作は二部構成となっており、どちらの作品も手紙が重要な役割を担っています。第一部「椅子」は、江戸川乱歩の原作を抄本にして、不気味な世界を覗いてみたいという好奇心と、理性からくる恐怖心という人間の相反する深層心理を表現する作品です。第二部「分際」は、小豆島に生きた実在の女性と、彼女を取り巻く人々に光を当てた物語です。
セミナーでは、朗読劇の鑑賞を終えた私たちに、この作品の脚本・演出を務められた仲野塾長より劇の背後にある物語をお話しいただきました。そして、塾生同士で感想を分かち合いました。
香川県小豆島で生まれ育った伊藤静野は、姫路の日ノ本女学校に進学するも体調を崩し、途中で退学しなくてはなりませんでした。その後、小豆島のバプテスト教会で知り合った牧師の伊藤戒三と結婚しましたが、3か月半後に夫は病死してしまいます。悲しみの中にあった静野でしたが、幼児教育と信仰生活に自分の使命を感じ、55年間の未亡人としての生活を全うしました。
この作品にはたくさんの手紙が出てきますが、塾長は緻密な調査を数年かかって行い、実在の人物の生きた物語をそれらの手紙の中に再現していきます。静野を取り巻く人々によって書かれた手紙が織りなす物語から、戒三の死後、静野が生きるエネルギーとしていたものは何だったのかを、観客は考えさせられます。
戒三は病苦に苛まれた期間が長かったこともあり、牧師としての俗に言う「功績」には乏しかったかもしれません。しかし、弱い立場にある人を決して見捨てることなく、常に寄り添って生きるという一貫した「軸」を持った人でした。
同様に、夫の死後ひたすら真っ直ぐに生き続けた静野も、絶対に人を分け隔てしないという一貫した姿勢を貫き続けました。世間の流れに逆らって生きることには、大きな困難が伴いますが、自分の「軸」をもって生きるためには、逆流を乗り越えて行かなくてはなりません。他者に流され自分を見失ってしまう時があったとしても、もう一度自分を本来の「為すべきもの」に立ち返らせるものが「軸」なのだと塾長はお話になりました。私も静野や戒三のような一貫した「軸」に自身が貫かれているのかどうか、朗読劇を鑑賞しながら省みる機会を得ました。
また、劇中に「静野は自分が一番愛されたと思わせる名人でした」という台詞がありました。どんな人にも分け隔てない静野は、相手のために時間をかけて愛情を注ぐことに一生懸命だったのだと思います。私たちは忙しい日常の中で、自らが受けた愛情を忘れてしまってはいないでしょうか。また同時に、私たち自身が、他者に惜しみなく時間を使い、心から愛することができているでしょうか。
今回の朗読劇を鑑賞し、恩を返すだけでなく、自分から与えていく「恩送り」の姿勢を実践していこうと決意を新たにしました。そして、日々私たちが受け取ったものへの感謝を忘れずこれからも精進してまいります。