ヤングセミナー
【レポート】人間塾2023年度第20回ヤングセミナー
2024年2月19日
去る2024年1月25日に、第20回ヤングセミナーを開催しました。
今回は、私がかかわった朗読劇のテーマについて話しました。塾生たちは皆、自らの使命や役割を考え、求め続けています。その熱い思いに対し何かヒントになればと思い、朗読劇で扱ったテーマについて話しをしました。
今回のレポーターは、第12期生の畠山健です。是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第12期生 畠山健
(東京工業大学3年)
1月25日に第20回ヤングセミナーが行われました。
今回のセミナーの主題となったのは「分際」でした。この言葉は仲野塾長が脚本を担当した朗読劇「手紙」の第二部のタイトルです。「『分際』という言葉は現代において否定的に用いられることが多いが、そのような意味だけではない」と言って、塾長は話し始めました。
塾長は、岩下壮一という人物についてお話ししてくださいました。岩下は実業家の長男として生まれましたが、父と同じような道には進まず、哲学の道へ進み、フランスで神父になった人物です。帰国して以降は、学者、教育者としても活躍しましたが、その後、御殿場のハンセン氏病患者の療養施設の院長となり、患者に寄り添う日々を送りました。哲学者として学問の世界で思索し続ける立場から、ハンセン氏病患者と共に病苦と死に向き合う立場となったのです。岩下の生涯を記した伝記「人間の分際」には、「これが神に与えられた使命だと信じている」という岩下の想いが綴られています。
「使命というのはこういうものではないでしょうか」と塾長は言いました。岩下が療養施設に遣わされたのは何かの縁だったのだと思われますが、患者とのやりとりの中に、岩下は自分自身の使命を見出しました。使命に至るまで人は、当人がまだ知り得ない使命の道に、運命に押されるように迷い込み、時に悩み、道を自分の手で切り開いて歩んでゆきます。その先でようやく、自分自身の人生での役割に気づくと思います。「これが使命。そして分際。『分際』には、神からその人に与えられた役割への献身であり、使命という意味がある」と塾長は続けました。
次に塾長は、朗読劇「手紙」の執筆にあたって、1人のモデルがいたことを語ってくださいました。第二幕「分際」のモデルとなった伊藤静野という女性は、小豆島で幼児教育に取り組んだ人物です。若くしてある牧師と結婚した静野ですが、僅か三ヶ月半の結婚生活ののち、病気で夫を亡くしてしまいます。その後の静野は、幼児教育と信仰生活に献身し、最期まで心の情熱を絶やさずに生きました。彼女は広く名を残すことこそなかったものの、確かな信念を抱いて人生を歩んでいたのです。
静野が亡くなったとき、彼女の所持品は小さな財布と少しの小銭だけだったと聞きました。この慎ましい遺品に、献身に人生を尽くした彼女の生き様がよく表れていると思います。私はこの話を聞いて、いかに自分が「何かを残すこと」「何かを成し遂げること」に囚われているのか思い知りました。大金持ちにならずとも、高名な偉人にならずとも、静野は多くの人を幸せにし、自分自身も心豊かな人生を歩みました。
私は、やるべきこと、やらなければいけないことを前にして、芯がブレてしまうことがあります。課題に立ち向かおうとしても、自分自身の気持ちを見失うことがあります。岩下壮一や伊藤静野は、愚直に、真っ直ぐに自分の使命を信じて生きました。しかしどちらも自分自身の意思ではなく、目に見えない波に押されるように彼らの使命に行き着いています。彼らの足跡を知った今日のセミナーで、「自分の使命を見つけるその日まで、今目の前にある道をしっかり歩みたい」という決意を抱きました。