ヤングセミナー
【レポート】人間塾2023年度第14回ヤングセミナー
2023年11月4日
去る10月28日にヤングセミナーを開催しました。
今回は、2009年にノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領(当時)が受賞式で披露したスピーチを紹介しました。
現実的な戦争という状況の中にあって、どのような他国との平和構築を進めていくのかは、大変大きな課題です。塾生たちは、この葛藤状態を前にして、改めて現実的に世界を俯瞰したのではないかと思います。
今回のレポーターは第12期生の村田裕真です。
是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第12期生 村田裕真
(慶應義塾大学3年)
2023年10月28日に人間塾にて第14回ヤングセミナーが開催されました。
今回のセミナーでは、2009年12月10日に開催されたノーベル平和賞受賞演説における、オバマ元大統領の演説文を読み、戦争・紛争について各々が考えを深めました。
私は、オバマ元大統領のこの演説の「我々は、暴力的紛争を我々の存命中に根絶することができないという、厳しい真実を認識することから始めねばならない。諸国が -単独行動か共同行動かを問わず- 武力行使が必要であるばかりか、道義的に正当化されると考えるときもあろう」という文章が強く印象に残っています。
その後の演説で、この考えと対立する概念として、キング牧師とガンジーの信条が持ち出されます。暴力は社会の問題を解決せず、新たなより複雑な問題を生み出すばかりであるため、愛と自己犠牲による非暴力を徹底することで、相手の良心に訴え相手の攻撃を鈍らせようというものです。
オバマ元大統領は、こういった歴史を踏まえた上で、キング牧師やガンジーは非暴力が持つ道義的な力の体現者であるといいます。しかしオバマ元大統領は、アメリカ合衆国の軍最高司令官の立場として、邪悪なものが存在するありのままの世界に立ち向かうためには、非暴力だけでは上手くいかないことを指摘します。
つまり、平和が望ましいという信念だけで平和が達成できることは非常に難しく、現実的に戦争は、平和を維持するうえで役割を有すという点で時として必要である、ということを述べているのだと思います。
しかし、オバマ大統領が認める戦争は、道義的でなくてはならないという点に注意が必要です。スピーチの後半冒頭部分に「武力が必要なところでは、我々は一定の行動規範を守ることに道義的で戦略的な利益を見出す。ルールに従わない悪質な敵と立ち向かう時も、米国は戦争遂行上の規範を守る旗手であり続けなければならない」とあります。
戦争がなくならない現実に直面したからには、戦争の規範を定め、道義的に正当化される「正しい戦争」の範疇を超えないようにしなければならないということだと私は解釈しました。この「正しい戦争」とはどのようなものか、倫理学の正戦論や戦争倫理学の分野で議論がされています。この厳しく残酷な現実を目の当たりにしているからこそ、この分野の議論に興味を持ち、自らも主体的に考える努力が求められていると思いました。
演説後半では、悲劇を避けるための努力をテーマに話が移ります。そこで、国際法を守らない国に暴力的ではない方法でその振る舞いを変えさせるように、世界中がその勝手な振る舞いを傍観せず団結すること、真の平和とは全ての個人が持つ尊厳と生来の権利に基づく公正なものでなくてはならず、その実現のために自由民主主義が存在する共同体であること、平和のために経済的な保障と機会があること、の必要性が説かれています。
そして最後には、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」という主だった宗教の中核にある「愛」の法則に触れ、これが人間進化の根源であり「我々を導く北極星であるべき」という強い表現が述べられます。これは、まさに人間塾の「恩送り」の概念と似ていないでしょうか。
オバマ大統領は、我々が向かうべき方向性と人間の持つ明るい可能性を挙げ、世界をより良くするために前向きなメッセージを残しました。私はこのメッセージを受け、理想的な世界に向けて何か行動しなくてはならないという気概が心に芽生えました。塾長は、このスピーチには深く考えさせられるテーマがあると仰いました。どのように自分はその問題を受け止め、自分はどのような立場をとるべきかを考えなくてはならないということです。
さらに塾長は、戦後以降に生まれた日本人など、たまたま戦争と無縁である地域に生まれた人々が、戦争を実際に体験していないことで彼らのことを理解することの困難さについても仰いました。そのような私たちが、戦争で被害を受けた人々、戦争を始めたくなくても始めなければならなかった人々の気持ちに真に寄り添い、彼らの力になることは非常に難しいでしょう。しかし、彼らの心境を理解しようと努めること、想像力を働かせようと努力することはできるのではないでしょうか。そのためには、それぞれの地域における文化と価値観を理解するために世界の歴史を勉強し、今現在世界で何が起きているかを把握することが前提として必要なように思います。
社会の流れが早く、毎日多くのことに追われている現代人の私たちに、このようなことまで考える余裕を持つことは難しいかもしれませんが、自分には関係ないと解決策を模索することを放棄することなく、必ず向き合っていかなければならない問題だと思いました。