ヤングセミナー
【レポート】人間塾2023年度第8回ヤングセミナー
2023年8月12日
去る7月27日に開催したセミナーでは、オーウェルの『1984年』を題材に議論しました。
この著作は、現代社会を見事に予見した名著ですが、案外読まれていないようです。全体主義へ向かう社会への恐怖を描いていますが、今の日本だけでなく、全世界を覆う不気味な不安定感の存在を表しているような気がします。
今回のレポーターは、第9期生の山本天智です。
是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第9期生 山本天智
(国際医療福祉大学5年)
7月27日に第8回ヤングセミナーが開催されました。今回のセミナーはジョージ・オーウェル著『1984年』が題材に取り上げられ、塾生はこの本を読んだうえでセミナーに臨みました。
ジョージ・オーウェルは1904年イギリス領インドに生まれたイギリス人で、その生涯を第一次世界大戦、スペイン内戦そして第二次世界大戦と、戦争とともに歩んだ作家です。彼は多くの戦争とその背景にあるイデオロギーを経験したことで、世界が全体主義へと陥っていく危機感を『1984年』を通して訴えました。
彼が『1984年』で描いた世界では、主人公の住む国は「ビッグブラザー」と呼ばれる象徴的な為政者の存在のもと、一党独裁体制が敷かれています。国民はテレスクリーンとよばれる特殊な装置により、24時間365日、常に党の監視下におかれていました。党体制に不満な様子や反対の姿勢を見せればすぐに秘密警察(思考警察)に逮捕されてしまいます。どこにスパイがいるかわからない中で、人々は周囲の人と決して本音で語り合うことなく、疑心暗鬼の中で生活を送っていました。党に不都合な過去は書き換えられ、辞書は党の思想に合致するよう考案された「ニュースピーク」という言語に統一されていきます。すなわち、言論統制と、思想のコントロールが行われていたのです。
オーウェルはこの作品を戦後間もない1948年に書き上げました。しかし全体主義の危うさを示したその内容は、それ以降の冷戦や監視社会をあまりにも克明に予見しており、不朽の名作として今なお読み継がれています。
仲野塾長はセミナーでまず塾生にその感想を聞かれました。塾生からは「顔のないものに監視される不快さを感じた」や「フィクションなのにまるで現代社会を描いているようだった」と、驚きと恐怖の入り混じった感想が多くあがりました。
『1984年』で描かれる世界では、党の統制により使用する言葉が制限されるため、人々は表現力やコミュニケーション能力を失っていきます。このことを踏まえ、『1984年』の世界の人は「自分の言葉」を失っていったのだと仲野塾長はおっしゃいました。党により思想を統制された人々は、自らの個性をも失い、思考停止に陥ってしまうのです。
そのうえで仲野塾長は「人は易き方、楽な方へ流れていく傾向にある」とおっしゃり、インターネットやAIが発展する現代社会における危惧を説明されました。人々がこのようなテクノロジーに依存することによって、自分の頭で考えることをやめ、オーウェルの懸念する思考停止の世界へと陥ることの危険性を感じました。そしてそれを防ぐためには「今この瞬間を丁寧に大切に生きなければいけない」とも示唆されました。今を大切に生き、感性豊かに身の回りで起こっていることを受け止め、自らの意思と言葉を持つことが大切だと思います。ともすると、周囲に流され、無意識に思考停止の状態に陥ることもあるのではないかと、恐ろしくなりました。
テクノロジーが発達した現代社会では、見えない監視が広がりつつあります。インターネットやスマートフォンの使用、デジタル化されつつある個人情報など、私たちの生活が可視化されています。今回のセミナーでは、オーウェルの『1984年』をもとに、そのような現代社会に潜む危険性を認識し、常に考え、自らの意思をもって生きていくことの大切さを改めて実感する機会となりました。