ヤングセミナー
【レポート】人間塾2023年度小豆島・遍路研修(第2日目)
2023年5月6日
2023年5月4日、朝6時50分に宿泊施設へのお礼の勤行を終え、歩き遍路一日目が始まりました。一日目から、いろいろな思いが塾生の旨を去来したようです。
今回のレポーターは第12期生の今野ひなです。
是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾 第12期生 今野ひな
(聖心女子大学2年)
地道ではあるけど、コツコツ歩みを進めた先には、何が待っているのでしょうか。導いてくださった先達の森下忠雄さんによると、お遍路とは、当初歩くことが目的ではありませんでした。苦しんでいる衆生を救うために令状を発し、仏教の教えを学んでもらうため、お寺をめぐる形となったのだそうです。
私は、お遍路という未知の体験に心を躍らせる一方で、不安も募らせていました。そこで、お遍路に精通している森下さんに「お遍路を通して見えるもの」についてお尋ねしました。一つ目は、「癒し」という返答でした。正直、この答えを伺ったその時には、わからなかったのですが、一日を通して実感することができました。豊かな自然の中で非日常を堪能することで、新たな気持ちと出会うことができました。
山岳霊場の第二番札所「碁石山」からの景色は息を呑むものでした。田ノ浦半島などが一望できるパノラマが広がっており、すっと身体に春風が通ったような解放感を覚えました。そして心の「余白」が生まれ、他者に思いを馳せることができました。一方で、普段心の余白がないのは、忙しさを理由にしているだけではないのかと思いました。忙しく辛い状況を楽しみ、意識的に余白を作るという姿勢を持ちたいと考えました。
そして、森下さんはお遍路とは「人情」でもある、と語ってくださいました。道中では、すれ違った地元の方が「ようお参り」と声をかけてくださいました。この温かさは日常の至る所にあります。しかし、非日常で自分の見る角度が変わっているだけであり、日常に存在しているのに、それに気が付いていない自分が問題なのだと思いました。
また、道中では他の塾生と対話をすることもできました。私は、普段から人と関わることに対して消極的であり、自分から人に出会いに行くことができていません。お遍路の中で塾生と話をしてみると、抱いていたイメージと全く違うと言われました。他人に自分がどう認識されていたのか、初めて知り、相互作用を通して、自分を知るという経験ができました。
更に、どれほどに本来の自分が開示できていないかを知りました。こんな自分を変えたい、しかし、簡単には変われない。そんなジレンマを抱えながら、山道を歩き進めていきました。そこに、詩人の壺井繁治氏の石碑を発見しました。「石は億萬年も黙って暮らしつづけた。その間に空は晴れたり曇ったりした」この言葉は、私の胸に地平性が広がるような長い年月を連想させました。
繁治の妻で、『二十四の瞳』の著者である壺井栄が残した言葉の中に、類似するようなものがありました。「桃栗三年、柿八年」この後につづく言葉には色々あり、「柚は九年の花盛り」とも言うのだそうです。柚が花を咲かすには、九年という時間を要します。しかし驚くことに、壺井栄が述べた年月はさらに長いものでした。「桃栗三年、柿八年、柚の大馬鹿十八年」栄が述べたのは、倍の十八年でした。
私はこれを読んだ際、変わらなくては、という自分の焦燥感を肯定されるような気持ちになりました。焦らなくてよい、時間はかかるが人に出会いに行く。柚のように冬を耐えしのぐ強さを持ち、自分と対峙する。二日目も、十八年かかるかもしれない自分を探しに、地道にこつこつ歩いてゆこうと決意しました。