ヤングセミナー
【レポート】人間塾2020年度第24回ヤングセミナー
2021年2月15日
人間塾 第9期生 髙木菜夏
(武蔵野音楽大学2年)
去る2月4日に第24回目のヤングセミナーが行われました。この日は小田原市にご在住の人間塾会員である小河様から、豪徳寺の招き猫(皆に福が来るように)と可愛らしいクッキーを沢山頂きました。改めて多くの方に支えられてここで勉強させていただているのだと感じ、心が温かくなりました。
この日のセミナーで、塾長は、チェコ出身の作家カレル・チャペックの作品『白い病』についてお話をされました。物語は、身体中に白い大理石のような斑点が広がり必ず死に至る「白い病」を軸に、様々な登場人物の心理が交差しながら進んでいきます。
登場人物の一人である町医者ガレーンは、優秀でありながらも権力に執着はなく、彼のみが白い病の特効薬を作り出します。彼は、貧しい患者たちに血清を投与するも、国中に広がった病禍はなかなか好転しません。舞台となっているのは他国と戦争することで富を得る軍事国家であり、国民は病への不安感に加え、戦争停滞への不満を募らせます。
そのような中、軍人のトップも次々と病に倒れます。ガレーンは軍人に血清を与えることで戦争が再激化することを危惧し、血清と引き換えに平和を要求します。権力者らはこれを受け入れたものの、市民によるデモが起こります。市民は病に対する不安と、戦線を離脱しようとする政府の判断に反発し、暴徒と化したのです。物語は、薬を届けるべく権力者の元へ向かうガレーンが市民の群れに踏み潰され、クライマックスを迎えます。
私は、塾長のガレーンに対する指摘の中で特に二つの点に関して深く考えさせられました。一つは、一見すると英雄的なガレーンの行為は、強い立場(血清を持っている)を利用しており、脅迫ともなりうるという指摘です。もう一つは、軍部に戦争を推し進めさせた目に見えない力は市民であり、ガレーンが話あうべきは市民であったのではないかという指摘です。
ガレーンの「あらゆる命」を救おうとする善意による行為は、使い道を誤れば弱者への強制力を孕んでしまいます。それは現代の軍事や医学においても同様で、大義名分を盾に何かを要求する行為は静かなる脅迫なのではないかと仰った塾長の言葉にハッとさせられました。
加えて、国家は権力者の力だけではなく、国を構成する国民の見えざる意志によって動くということにガレーンは気づかなかった。そして今の日本にも同じことが起こっている、と塾長は仰いました。昨今の報道で、新型コロナウイルスに対しての行政の判断が遅いことに不平不満を述べる国民が多くいた。しかし、これは翻って自分たちに返ってくる言葉ではないだろうか。受動的に行政指導を待つのではなく、国民が国を動かすという意識を持って、個々人が自身の倫理に基づき判断を下すことの重要性を塾長は説かれました。
私自身も、指示を待ってから行動するという受け身の姿勢をとることが過去に何度もありました。人間塾での学びを通してこのままではいけないのだと焦りを感じるようになりました。
今回のセミナーを通しても、ただ待つばかりでなく知識と道徳心を持って常に自分にできることは何かを考え、行動に起こしていく必要があると強く感じました。