ヤングセミナー
【レポート】人間塾2020年度第5回ヤングセミナー
2020年5月21日
人間塾 第7期生 小川大介
(筑波大学2年)
去る5月14日、人間塾第5回ヤングセミナーが行われました。『ペスト』(カミュ著)の討論会を主体として開催されました。今回もweb会議での開催でした。討論会の司会は9期生の山本くんが担当しました。
討論会は山本くんによるカミュのまとめから始まりました。主な登場人物の紹介、『ペスト』を序盤、中盤、終盤に分割して解説が行われました。その後、一人の塾生に2分の持ち時間が与えられ、『カミュの視座から、着地点は何でしょうか?そして、あなた自身の着地点は何でしょうか?』という塾長からの問いかけに対して塾生が各々に発表しました。
『ペスト』はアルジェリアの都市であるオランを舞台にした小説です。この街でペストが流行しロックダウンが起きます。そして、人々はオラン市の中に閉じ込められます。そうした設定の中で人間の様々な心理的側面が描かれた小説でした。
さて、今回の塾生の発表を聞き、キーワードは「誠実さ」と登場人物の「ランベール」だと感じました。まず、誠実さについてお話しします。
『ペスト』の中でのカミュの主張は『苦しい時や非日常の中で、誠実に生きなければならない』であると考えた塾生が多くいました。『ペスト』の文中に『ペストと戦う唯一の方法は誠実さだ』と語られるシーンがありました。その発言者である医師リウー自身が職務を全うする姿か、多くの塾生は誠実さを感じたのだと思いました。
続いてのキーワードであるランベールについてお話します。ランベールはパリから来た新聞記者です。ロックダウン後、故郷に置いてきた妻への愛ゆえにオランからの脱出を試みます。一度目の脱出計画は予期せぬアクシデントで潰えました。その後、ペスト対策に尽力している医師リウーの妻が、重い病のために街の外で療養していることを知ります。それを知ったランベールは街を脱出せずにペストと戦う決心をしました。
ランベールに自分自身を重ねる塾生が多くいました。『ペストから逃げ出すような利己心が自分の中にある。だが、ランベールのように心を入れ替えて、目の前の義務と向き合いたい』というある塾生の発言が我々の気持ちを代表していました。
一方で、『街を脱出すれば恥ずかしいと思うだろう』とランベールが話したことに対して違和感を感じた塾生がいました。『ペストと戦う決心をした理由が恥ずかしいからならば、それも名誉を守るための利己的な動機ではないだろうか』という指摘でした。
発表後、前述した塾生の違和感について意見交換が行われました。このランベールの動機に対して様々な意見がでました。この恥ずかしいという気持ちの対象は自分の良心だという意見が印象的でした。
その後、塾長先生にご講評をいただきました。ペストは複数の主題が同時並行で進行していると塾長先生はおっしゃいました。病気としてのペスト、私たちの心を蝕む存在の象徴であるペスト、このペストに打ち勝とうとする良心、そして良心を象徴する神の存在。これらの主題を塾長先生は感じながら読み進めたそうです。神の存在のお話の中でランベールの恥ずかしいという発言について説明してくださいました。ランベールの「恥ずかしさ」は、彼自身の心の中にある良心に対しての恥ずかしさではないか、とお話しくださいました。さらに、「そうした良心はどこから来るのか?」とカミュに問いかけられているように思えるとおっしゃいました。そして、良心を生み出す存在を神と表現するならば腑に落ちると結ばれました。
ペストを通して様々な考えを知ることができました。個々人が悩んでいることや興味があることを反映して、同じ作品が様々な見え方になることが非常に興味深かったです。そして、文学の一端を体感できた有意義なセミナーとなりました。