ヤングセミナー
【レポート】人間塾2016年度第21回ヤングセミナー
2017年3月10日
人間塾 第5期生 石川凜太郎
(千葉大学3年)
去る3月2日は今期最後となる21回目のセミナーでした。その始まりにふさわしく、これから多くが社会人となる、修了生をはじめとした塾生に向けて示唆に富む言葉の多いセミナーになりました。
セミナーで主に扱ったのが、ラインホールド・ニーバーの言葉でした。彼は神学者でしたが、聖書中心主義というよりは、社会的に実践主義者傾向があったという点で多くの神学者と一線を画しました。そのため、実際に社会を作り上げるうえで多くの役割を果たすであろう、政治家や教育者に大きな影響を与えています。アメリカのジミー・カーター氏、ヒラリー・クリントン氏や、バラク・オバマ前大統領たちも、ラインホールド・ニーバーの影響を受けたことを公言しています。
そのニーバーが残した有名な言葉に「おお、神よ。我らに変えられないものを受け入れる心の平穏と、変えるべきことを変える勇気、そして変えることのできるものと変えることのできないものとを見極める知恵を与えたまえ」という言葉があります。
塾長は塾生一人一人にその原文の書かれた紙を配り、この言葉との出会いを説明されました。塾長がこの言葉を初めて知ったのは、19歳の時だったそうです。塾長は当時、フィリピンのモンテンルパにある貧しい地域とかかわりを持っていました。そこは水道もなく、夜は蚊に悩まされるような場所でした。フィリピンでは構造的貧困の社会であり、ごく一部の富裕層と大多数の貧困層が歴然と存在する社会でした。そんな中で生活していた、同世代の女性がこの言葉を塾長に送ってくれたそうです。この言葉を書いたはがき大の紙は、手渡された時、雨に濡れないようにビニールの袋で包んであったそうです(ラミネート加工が当時はなかったため)。貧困に苦しんでいた彼女がこの言葉に出会ったとき、どのような気持ちだったのでしょうか。そして塾長にこの言葉を手渡した時の彼女の心中にはどのような思いが去来したのでしょうか。
中国の古典に「義を見て為さざるは、勇無きなり。」という言葉があります。ニーバーの言葉はこの故事をさらに広げ深めたものです。時空をはるかに超えても、共有される価値観は共通であることに気づきます。私自身、どうにもならない過去のことをくよくよと悩んでしまうことがあります。ニーバーの言葉を借りるならば、変えられないことに囚われ、それを受け入れられない自分がいるのです。この言葉には、これからの人生を豊かに過ごしていくための多くの示唆を感じました。
最後に、塾長は修了生に向けて温かい言葉を掛けられました。人間としての器というべき幅は、自分の中の既成概念が崩れ去ったときにできるものであると話されました。いくら頑丈であっても古い建物の上に新しい建物を増築しては、たちまち亀裂が入ってしまうものです。社会に出ると、これまでになかった多くの障害に直面することになると思いますが、それに対して打ち勝っていってほしいという塾長の思いが感じられました。
修了生の方々とは一年間しかご一緒できなかったので残念ですが、修了されてからも修了生としてこれからも交流させていただければと思います。一年間、本当にありがとうございました。来年度も多くの学びを得ることを願って、結びの言葉とさせていただきます。