ヤングセミナー
【レポート】人間塾2015年度第9回ヤングセミナー
2015年9月3日
人間塾 第4期生 冨岡知世
(聖心女子大学4年)
今回のセミナーは一日を通して行われ、まず時事問題に目を向けることから始めました。一つの例として、安全保障関連法案の改正が挙げられ、塾長から「あなたは確固たる意見を持っていますか」との問いかけがありました。「ある」と答えた塾生は、賛成・反対とその理由を述べました。安全保障関連法案の改正に関して様々な論争が起こる中、塾長は福沢諭吉を思い起こしたと『学問のすゝめ』より、第6編・第15編・第16編についてお話してくださいました。
第6編は法律の尊さについて述べられています。
「政府は国民の代理として事に当たっている、したがって国民はそのやり方に従わなければならない」
政府は私たちの代理であり、代理人の作った法案はすなわち私たちの作った法律ということになります。それに対して違うと思うのであれば、私たちは変えていかなければなりません。「己が作った法に従う」という言葉は生きており、私たちが国をどう捉えるか、国民一人ひとりが問題意識をもつ重要性を感じました。
第15編は取捨選択の重要性について述べられています。
塾長は「真理〈自分にとって大切なもの〉の探究はまず懐疑せよ」とおっしゃいました。人間が物事を妄信すれば嘘偽りがはびこるということを東日本大震災後の放射能被害や風評被害を例にお話くださいました。
福沢諭吉は「疑いの心を持ちながら真理を探究し続けることは厳しく辛いこと。しかし、疑うだけでは前に進めないため、疑いながら取捨選択をする」との考えを持ち、「疑いつつも何を信じて何を取り入れるか取捨選択していくことが必要で、選択する時の判断力を養うために学問があるのだ」と言っています。また、本物を探し求めるために「多くの書物を読み、多くの知恵ある人々に会い、多くの話を聞く」ことが大切だと言い、この「知恵ある人々」に関して塾長は、次のように話されました。世の中に生きる人の多くは一つの物事を深く考えることをしないことが多い。したがって自分の生き方・考え方を深めるためには同じ穴の「むじな」とばかりつるむのではなく、互いに違う意見を持った者同士が集まりぶつかり合う経験が必要である、と。
第16編は独立について述べられています。
独立には物質的な独立と精神的な独立の二種類があり、物質的独立なくして精神的独立はありません。真の独立を福澤諭吉は、「何者にも何事にも縛られず援助も受けず、自分の力で自らの道を切り開いていくこと」であるとしています。そこで、学生である私たちは今独立の準備段階にあるのだから、物心ともに様々なものを頂けるうちに十分にもらっておくこと、ただ、自分のためだけに使うようなことはしてはならないと塾長はおっしゃいました。経済的にも精神的にも安定するようになったら、本当に困っている人を助けることができるようになります。そのためには人一倍努力し、技を磨き心を磨くことが大切です。塾長は「人生には差があるがその差を嘆くのではなく、そこに行きつくまでにどのような人生を歩むかが重要である」とし、人間塾の設立者出る井上和子さんの祖父・石橋正二郎氏のお話をする中で、福沢諭吉の「天は富貴を人に与えずして、これをその人の働きに与うるものなり」という言葉を教えてくださいました。このお話や言葉から世のため人のために生きることができるようにならなければならないと学び、午前中のセミナーを終えました。
午後のセミナーは塾長が塾生一人ひとりに、「今一番悩んでいること」を尋ねられました。塾生からは将来のことをはじめ、自分がやりたいこと・やらなければならないこと・するべきことに通ずる悩み事が打ち明けられました。そこで塾長は人生を山登りに例えてお話しくださいました。人は皆、何かの山に登ることはすでに決まっている、しかし、どの山に登るべきか誰にもわからない。気が付いたら○○山に登っていたというのが人生で、この山だと決めて登る人は稀有だと。先が分からないが迷わず登ってみる、人生は歩きながら決まるものだというお話に、将来に不安を持つ多くの塾生の気持ちが救われました。
塾生の悩みに丁寧に答えてくださった後、塾長は『星の王子様』の中から王子様の星で育てていたバラに対する無条件の愛のお話をしてくださいました。王子様はバラを育てることに時間を費やし、精一杯の愛情を注ぎました。そのおかげでバラは凛として咲き続けていられたのです。塾長にとってのバラは塾生1人ひとりなのだとお話しくださいました。また、愛とはどれだけの時間を費やしてきたかということであり、母親の愛情がまさしくそうであるとも言われました。
「大事なことは目に見えない」、だからこそ心の目で見なくては肝心なことは理解できないともお話くださり、表面ばかり追うのではなく、人の心の奥底まで見ることのできる人でありたいと思いました。
「国際交流はなぜ起こるか」「どうすればこの世の中は平和になるのか」ということに対しては、塾長は世界中でつながることと、世界中に友達を持つことを挙げられました。友達のいる国に爆弾を落とす者はいないはずだと。人がつながればつながるほど戦争の抑止力になると教えていただきました。「最後は人と人との絆」という言葉が印象的でした。
最後に国際人である新渡戸稲造の著書『武士道』についてお話いただきました。『武士道』の中で新渡戸は、武士は尊敬されるべき社会的リーダーであり、世の中をより良い方向へ導こうとするのだと言い、そこに「ノブレス・オブリージュ」と書いてあったそうです。人を大切にする・人を愛することはたくさんの人に対して責任を持つことであり、世界中に対してもそのような心を持つということを教わりました。
一日をかけてたくさんの学びを得ることができました。私は安保法案をきっかけとして社会に対して問題意識をもつこと、人生の山登りのお話から自らで狭めてしまっていた考えを改めることなどの気づきを得ました。