講演会

【レポート】人間塾2024年度第三回東京講演会

2025年1月25日

2025年1月19日、第三回人間塾東京講演会を開催いたしました。対面でのご参加の方々、オンラインでご視聴くださった皆様、ありがとうございました。

今回のテーマは「日本社会における霊性のありか」についてお話をさせていただきました。大変難しいテーマでしたが、鈴木大拙からたくさんヒントを貰いながらの講演となりました。オンライン視聴をしてくださる方々の中に、子どもさんと一緒に聞いてくれている修了生が数名おりました。親子二代にわたって聞いてくださる修了生に感激し、中にはご両親も参加してくださり親子三代にわたってのご参加に、私は歓喜の声を上げております。心から嬉しい講演会になりました。

今回のレポーターは、第12期生の島田優です。
是非ご一読ください。

塾長・仲野好重

人間塾第12期生 島田優
(中央大学4年)

2025年1月19日、人間塾第三回東京講演会が開催されました。今年度のテーマは「社会の波と共に歩む」です。今回は「日本社会に潜在する霊性哲学」というテーマのもと、「日本社会における精神性の内奥に存在する精神的土台、いわば霊性のありかについて考える」という観点から講演会が行われました。

人間塾2024年東京講演会第3回:講演会を前に

講演会を前に

講演のはじめに、仲野塾長は「祈ること」についてお話しされました。祈ることとは、人知の及ばないことに対して天の助けを求めることであり、「聞こえないメッセージを聞き取ろうとする」という基本姿勢が求められます。これには「この世には人知が及ばぬことがある」という限界の感覚がなければ生まれません。しかし、こういった祈りの姿勢や人知を超えたものに対する畏怖の念を欠いた結果が、散見される世の中になっています。一つの例としては、東日本大震災時の原子力発電の問題です。原子力の持つすさまじいエネルギーに対する人間の謙虚な姿勢を欠いた結果、大惨事となりました。目先の利益や合理性を安易に求め、それを許す社会となったことにより、だんだんと日本人の人知を超えたものへの畏敬の念は失われていったと塾長は指摘しました。

講演では「生きる力」についても、塾長は言及されました。「生きる力」とは、自分は物事を知らないということを知っているという感覚(メタ認知)であり、心身のすべての機能を総動員して生きるチャンスを最大化する力のことです。人生においては、予測的に将来を見通すことはできず、事後的にわかることが多くあります。現在進行形の行為の意味は分からずとも、「何となく」という自分の心と直感に従うことで得た経験(点)が人生を振り返った際に「線」で結ばれ、後にその意味が明らかになるのです。

しかし、数字で結果を測る現代においては、この「何となく」という感覚も軽視されています。そして現代においては、心と直感を信じる勇気を持つこと、直感を磨くことへの教育はほとんどなされていません。こうした現状が、日本から発見や発明が生まれない創造的不毛につながり、SNSがもたらす群集心理の功罪につながっていると考えられます。

仏教学者の鈴木大拙は「霊性は精神とは異なる」と述べました。これは、霊性が物質でも心でもない次元に存在するという意味です。日本的霊性は、武家社会が形成された鎌倉時代に生まれたと考えられています。浄土真宗の開祖・親鸞は、流刑地にて土着の人々と共に農業を行うことで、大地によって活かされて生きているという念仏宗教の意味を理解したと鈴木大拙はいいます。そして念仏を唱えることで阿弥陀様に救われるという単純明快な教えは、年貢や領土争いなど自分たちが生きるために土地を必要とし、大地と密接に関わる農民や武士に受け入れられました。こうした土着の信仰、生まれ育った地域にしがみついた精神性の中に、大地から離れられない特徴を持つ「日本的霊性」の誕生へと繋がりました。

人間塾2024年東京講演会第3回:霊性について考える

霊性について考える

さらに、この霊性は、傲慢な理知が折れること、自分が持っているものを手離すという自己否定の経験を通じて育まれます。この自己否定について、仲野塾長は「持っているものを手放す自己否定」と「情熱」は、相通じるものであると語られました。情熱(Passion)には、「情熱」と「受難」という二つの意味があります。苦しくて死ぬような思いをしてでも、それを乗り越える思いと勇気を持ってその事柄に向き合い続けることが情熱であると塾長はおっしゃいました。また霊性には、自分の全てを手放すという自己否定によって、何も持たない貧しい自分に立ち返り、苦しみながらも、良くなろう、良くしていこうと願う迫力と勇気が必要です。苦しみながら、そして死にものぐるいで、勇気と迫力を持つという点において、自己否定と情熱は同じものであるといえるのではないかと思いました。

また鈴木大拙は、「妙好人」のように見栄をはらず、素朴に純粋にまじめにコツコツと生きる姿勢が日本的霊性を育むと述べました。これは日本人の特性とも言えます。コツコツと霊性が長い時間をかけて熟成されることに価値があると鈴木大拙は言っています。自己を開き、何もできない弱い自分を知ったときこそ、何をするかが重要であり、そこに霊性が問われると塾長は指摘しました。そのためには弱さも強さも受け入れる「あるがままの自分」で存在し続けられるかが大きな課題となると塾長は強調されました。

今回は霊性哲学について、その誕生や概念について学びました。数字を追い求める現代において、私たちの聞こえないメッセージに耳を傾ける姿勢、危機を回避するリーディング能力は急激に衰えてきています。そのような時代であるからこそ、妙好人のように、「あるがままの自分」として、弱い自分を受け入れて、日々丁寧に生きていくことが必要だと思います。そういったことを通じて、超越的な存在への感度を高めること、霊性という生き方を育むことこそが、数字を追い求める現代に流されない生き方であると思います。そのような生き方が、この世界をより良くしたいという「情熱」につながるのではないかと感じました。



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