講演会

【レポート】人間塾2024年度第二回東京講演会

2024年10月22日

2024年10月13日に、今年度第二回目となる東京講演会を開催いたしました。対面でご参加の方々を始め、全国のオンライン参加の方々のお顔も拝見でき、大変嬉しい気持ちでお話させていただきました。テーマを「社会の波と共に歩む」とし、今回は「まず相手を知ることから」と銘打って、ロシア国家に流れる心理的源流のようなものに近づいてみようと考えました。そのヒントとして、ドストエフスキーの絶筆となった「カラマーゾフの兄弟」を紐解きながら、皆さんとご一緒に学ぶ機会を頂きました。

今回のレポーターは、第12期生の島田優です。
どうぞご一読ください。

塾長・仲野好重

人間塾12期生 島田優
(中央大学4年)

10月13日、人間塾第二回東京講演会が開催されました。今年度のテーマは「社会の波と共に歩む」です。今回は「まずは相手を知ることから」というテーマのもと、ドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』を通じて、ロシアという国の背景に流れる価値観や行動への原理力を探るという観点から講演が行われました。

人間塾2024年東京講演会第2回:講演前に壺井さんのお握りを

講演前に壺井さんのお握りを

塾長は、ロシアの特徴として政治、文化、宗教の面で「閉ざされた世界に生きてきた」ことを挙げました。1985年、ゴルバチョフによるペレストロイカ(立て直し)政策が始まり、その後、エリツィンによってロシアの扉は一旦大きく開かれましたが、政治、経済などに大混乱が生じました。エリツィンの後継者となったプーチンによって、再びロシアの扉は閉ざされ始め、2022年2月24日のウクライナ侵攻を機にほぼ完全に閉じられてしまいました。この1985年から2022年までの37年間を、塾長は「ロシアにとって奇跡的に扉が開かれた時代」と指摘しました。

塾長は『カラマーゾフの兄弟』における重要なキーワードとして「父」という存在を挙げました。実の父を殺されたことによるドストエフスキー自身の心情への葛藤、そして国家という「大いなる父」への不信。この二重の「父殺し」のテーマが、『カラマーゾフの兄弟』に込められているのではないかと語られました。

講演では『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の章についても取り上げられました。このエピソードは、キリストの教えである「人間の自由とそれに伴う責任」と、大審問官の主張する「権威に服従することで得られる安楽」との葛藤を象徴していると塾長は述べました。この章は、自由と権威、信仰と疑問の複雑な関係を描き、人間の存在における根本的な問いを投げかける印象的なエピソードであると紹介されました。

さらに、塾長はロシアへの理解と『カラマーゾフの兄弟』の関連性について4つの観点を挙げました。宗教と信仰の重要性、共同体と個人の関係、苦悩と救済、そして道徳と正義です。ロシア文化では、宗教が国家や個人のアイデンティティの一部として深く結びついており、共同体が個人よりも優先され、家族や国家の利益が個人を凌駕する傾向があると指摘されました。また、ロシア文学の根底には、罪を背負った人間が二度と後戻りできない恐怖心や、救済には奇跡を伴うという価値観が流れているのではないかとも指摘されました。

人間塾2024年東京講演会第2回:難題と向き合う塾生

難題と向き合う塾生

塾長はまた、プーチン政権との関係性についても『カラマーゾフの兄弟』から示唆を得られるのではないかと話されました。権威と自由の関係、個人と国家の関係、信仰と権力の役割などの側面から見ていくと、プーチンの政治哲学を理解する手助けになると考えられます。大審問官の章では、自由を剝奪することで人民に安定をもたらすべきであるという主張、そして教会が人々を支配するための道具として利用されていることは、プーチン大統領の政治哲学や国家統合手段と類似する部分があるのではないかと考えられます。そしてプーチン政権が個人よりも国家の利益を優先する姿勢を取っているのも事実です。そういったプーチン大統領の政治手法などを理解するためには、彼のロシア人としての心性や動機、価値観を彷彿させる「カラマーゾフの兄弟たち」を一度読んでみることが必要ではないかと塾長はご指摘されました。

最後に、ドストエフスキーのこの作品が示唆するものの一つに「超越的なものを大切にしなくなった」ことへの警告という言葉がありました。超越的なものとは、目に見えないものです。私は人間塾に入るまで、この「目に見えないもの」を大切にしていませんでした。しかし、人間塾に入塾してからその重要性を学び、今ではいかにそれが大切であるかを日々感じています。社会に出ると、目に見えないものの大切さを見失いそうになる瞬間もあるかもしれません。しかし私は、あらゆるものによって生かされていることを忘れず、感謝の気持ちを持って行動することが大切であると考えています。そして、そのような自らの思いを、他者に伝えることを心がけていきたいと思います。



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