講演会
【レポート】人間塾2024年度第一回東京講演会
2024年8月4日
去る2024年7月28日、人間塾で第一回東京講演会を開催いたしました。暑い中を沢山の方々が人間塾までお越しくださり、またオンラインでも大勢の方々が視聴してくださいました。厚く御礼申し上げます。私は皆様の熱意に励まされて登壇できました。テーマは、ティヤール・ド・シャルダンの「精神性における進化」についてでした。私にとっても大変難しいテーマで、ずいぶんと長い間向き合い続けてきましたが、参加者の方々は熱心にお聞きくださいました。心より感謝申し上げます。
今回のレポーターは、第9期生の山本天智です。是非ご一読ください。
塾長・仲野好重
人間塾第9期生 山本天智
(国際医療福祉大学6年)
7月28日に人間塾第一回東京講演会が行われました。今年度は『社会の波と共に歩む』という大きなテーマのもと、昨今の不透明な社会を生きていくための智慧を多様な観点から考えていきます。そして7月28日に行われた講演会では『科学と精神性の交わり』というテーマで、人類のこれまでの歩みとこれからの進化について、塾長が講演をされました。
数百万年前から始まった人類の進化は今なお続いています。進化というと私たちは生物学的な進化、すなわち類人猿と共通の祖先からホモ属が登場し、現在の人類の姿になっていくことを想像しがちですが、人類が地球上もっとも優れた生物として発達してきたのに欠かせなかったのは脳・思考(精神性)の進化でした。
20世紀に活躍した生物学者であり哲学者のジュリアン・ハックスレーは、「進化」を中心とする文系・理系の垣根のない新たな概念を導入しようとしました。彼は、人間は絶え間ない進化の中に常に身を置いており、その精神的社会的進化には文系理系を統合した包括的な科学を用いて捉えることが大切なのではないかと考えました。精神的社会的進化は、様々な思考や内面の小さな変化が積み重なり、その蓄積が臨界点に達した時、創発が生まれ、それまで想像できなかったものが発生するという考え方です。そしてそれを理解するには、それまでの個々の諸科学が結集した包括的な科学の活用が必要だと、ハックスレーは主張しました。
このハックスレーの考えを受け継ぎつつ、更に「進化」に関する考え方を発展させたのが、ハックスレーの友人で、考古学者であり古生物学者、そして聖職者であったティヤール・ド・シャルダンです。彼は進化に関する概念を深め、進化を複雑性と意識化の上昇過程としてとらえました。
シャルダンは進化をこれまで考えられてきた個体の形態的な進化から、人類全体の精神的な進化へ発展していくと導き出しました。かつて物質が複雑化して「ヒト」が誕生したように、さらにそこから精神性が複雑化して一つの大きな精神圏に至るというのです。そしてさらにその精神圏は最終的にオメガ点と呼ばれる終着点にたどり着くと考えました。
彼によると精神圏は数十万年を経て、人類全体の共有のものとして、放散と収斂を繰り返しながら発達し、やがては統合されていくそうです。つまりオメガ点に向かうにつれて人類は、人種や言語、宗教や思想などにおいて結集、密着していき、一つの中心点に収斂されていくのです。そして個性や個人間の違いは消滅し、共有された精神性で人類は繋がり、最終的には一つのオメガ点という終焉のポイントへ到達すると考えたのです。
それではその行きついたオメガ点には何があるのでしょうか。シャルダンによるとそこには「自らも人類と共に進化しつづける大いなる存在」が在ると言います。もはや我々一個人が想像できるものではない世界へと行きつくのです。
今回は進化に関する斬新な概念を学ぶことができました。昨今、ITやAIの発展が絶え間なく進んでいますが、それらの技術を活用し、人間の思考だけではたどり着くことのできなかった精神世界に行きつく日もそう遠くないのかもしれません。シンギュラリティという概念も近い将来に到来すると言われています。今後、私たちは人類という大きな視点から自らの立ち位置を考え、進んでいくことが求められているのではないでしょうか。