講演会
【レポート】人間塾2021年度第三回東京講演会
2021年10月21日
人間塾 第10期生 遊馬大空
(日本大学3年)
去る10月3日に、仲野塾長による第3回東京講演会が開催されました。人間塾会場は感染症対策を講じて設営され、オンラインでも多くの方にご参加いただきました。第3回のテーマは「公益追求のための算盤勘定〜渋沢栄一:倫理的経済への執念〜」でした。
渋沢栄一は、日本に初めて銀行や株式会社という概念を導入し、実業家として活躍した人物です。講演会では彼の生涯を追いながら、どのような信念を持って実業家の道を歩み、当時の日本社会を変えようとしたかについて、塾長は語られました。
渋沢が重要視していたのは、個人の利益追求のための経済活動ではなく、社会に生きる人々の生活と心が豊かになるという「公益」のための経済活動でした。彼の提唱した「合本主義」では、人々が幸せに暮らす社会を目指すことが原動力となっており、得られた利益は事業に関わった全ての人と分かち合われます。そして、分かち合うことを通じて、社会全体が豊かになることを目指していました。
塾長は、渋沢の公益追求の姿勢を紹介する際に、「物やお金、知識を得られるということを当たり前だと思ってはいけない」と仰いました。お金や知識を得たとしても、それはもらって当たり前のものではなく、社会に生きる人々から自分に与えられた物なのです。よって、私たちには、そこから得た善きものを社会に返す義務があるのです。
私は人間塾で多くのものを与えられている分、自分が得たものを使って、より良い社会を創っていかなくてはならないと実感しました。塾生が毎月頂いているスカラーシップには、人間塾に関わる方々からの塾生への期待が込められています。そして、セミナーや合宿、様々な研修や芸術鑑賞などを通じて、私たちが得られる知識や気づきは、通常の大学生活からは得ることのできない経験です。社会に支えられて生きていることに感謝し、自分が与えられたものを役立て、自分の能力を惜しみなく使い、社会に貢献するという義務を果たしていきたいと思いました。
また、渋沢が公益を追求する上で大切にしていたのは、商業と道徳を合体させていくことでした。売り手と買い手のどちらかが得をしたり(あるいは損をしたり)、築いた富を独り占めするのではなく、社会全体が豊かになるために利益を循環させることが大切であると渋沢は説いています。そのためには道徳心が必要であり、人格を磨くことが肝要であると彼は考えていました。渋沢は投資によって得た利益を次の事業に投資することで、500社を超える企業を設立しました。現在で言うところのシリアル・アントレプレナーでした。
この講演会で私の心に残った塾長の言葉は、「自分さえよければいい、という考え方は誰のためにもならない」というものです。自分が得をすることだけを考え、自分本位で行動すれば、周りに迷惑をかけ、社会により良く関わることはできません。生前の渋沢の言葉をまとめた『論語と算盤』では、私利私欲を追求して一部の層に富が集中する当時の社会を危惧しています。渋沢の考え方は、現代社会においても経済の在り方だけでなく、人としての在り方について通じるものがあると思いました。
渋沢の生涯から、私は自分が与えられてきたもので社会にどのように貢献できるのか、その手段として、現在大学で学んでいる絵画がどこまで通用するのかを考えました。今まで生きてきた中で得た経験、そしてこれから人間塾で学んでいく経験を通して、絵画という表現に拘らず、自分の可能性を探し、社会をより良いものとするために挑み続けたいと思います。