講演会
【レポート】人間塾2021年度第一回東京講演会
2021年7月2日
人間塾 第7期生 藤原涼香
(東京慈恵会医科大学5年)
去る6月20日、仲野塾長による東京講演会が開催されました。2021年度東京講演会は、「希望を持って生きる~先駆性と斬新さに挑んだ人々~」を年間テーマに、全5回にわたって開催されます。今回はその第1回目で、タイトルは「批判を恐れない政治判断~アンゲラ・メルケル:人生の土台にあるもの~」です。
アンゲラ・メルケルは、2005年からドイツ首相に就任している人物です。講演会では、メルケルの生い立ちから現在に至るまでの人生が紹介され、そこから今に繋がるメッセージが語られました。メルケルの人生の中で、特に印象に残ったことが大きく2つあります。
まず1つ目は、元西ドイツ首相ヘルムート=コートのヤミ献金問題が発覚した時、メルケルがいち早く彼を批判した、という出来事です。メルケルには、ヘルムート=コートに出会ったことでCDU(ドイツキリスト教民主同盟)に入党し、その翌年にコールから青少年問題担当大臣に任命されたという過去がありました。政治活動を行う上で、コールはメルケル にとって非常に大切な存在だったにもかかわらず、メルケルは「国民を欺く行為は許しがたい」と彼を厳しく批判したそうです。自分が恩を感じている人に対し、このような態度を取るのは簡単なことではなく、大変勇気がいることだと思います。この一件から、メルケルの誠実さや、ブレない芯の強さを感じることができました。
2つ目は、2015年から始まった難民政策です。シェンゲン協定のもと、メルケルはドイツにおいてシリア難民を受け入れるという政策を打ち出しました。この政策は、はじめは国民からの支持を受けたものの、1年に100万人を超える難民が流入し多額の税金が投入されたことから、強い批判を浴びるようになりました。それが他政党やCDU内の反メルケル勢力が台頭するきっかけとなり、メルケル政権の失速に繋がったのではないかと言われています。
仲野塾長は、メルケルが難民政策を打ち出した根底には「人間の尊厳は不可侵である」という信念があるのではないかと述べられました。一般的に、メルケルは感情に流されず、原理原則を重んじる人物と言われています。しかし、塾長は、彼女のスピーチを分析することで、一貫した精神的支柱とでもいうべき土台が見えてくると述べられました。スピーチで語られた言葉として、「政治には信仰・希望・愛が必要であり、1番難しいものは愛である」「政治家として大切なことは、愛を実践し、神の前で謙虚であること」 といった例を挙げられました。こうした内容から、メルケルの政治姿勢の根本には、理屈や科学的な観点だけではない、信仰に基づく考え方が土台にあると知ることができました。
私は今まで、メルケルに対して論理的で現実的な人物だと思っていましたが、このような精神が基盤にあるからこそ、彼女の言動には一本の軸が通っているのだと感じました。そして、メルケルの自分が正しいと思うことに対し、信念を持って諦めずに取り組む姿勢に感銘を受け、私自身もそう在りたいと強く思いました。
最後に、塾長は、「メルケルは、難民政策を切り口に、人間の自由と責任を訴えたのではないか」と語られました。自由は大切ではありますが、自由の概念は世俗化して時に都合よく用いられます。自由は無条件なものではなく、責任が伴うものです。東ドイツに生まれ、ベルリンの壁崩壊の時代を生きたメルケルだからこそ、自由の尊さと、その重みを理解し、実践しようとしていたのではないかとも述べられました。
「自由には責任が伴う」という言葉は、今まで人間塾でも教えられてきたテーマでもあります。自分の人生を歩む上で、私たち一人ひとりに選択の自由があり、そして選び取る責任が伴います。私自身もこの自由な社会を生きることに責任を持ち、自分の能力や才能を活かして社会をより良くできるよう、人生の選択をしていきたいと思います。