講演会
【レポート】2019年つぼみプロジェクト塾長講演会
2019年10月15日
人間塾 第8期生 小澤徳崇
(多摩美術大学3年)
2019年10月6日、NPO法人日本教育再興連盟つぼみプロジェクトによる、塾長講演会が、東洋大学白山キャンパスの教室にて行われました。今回の講演会のテーマは、「大学生のキャリアデザイン~向き合うこととその覚悟~」でした。この講演会の主催は、つぼみプロジェクトに参加している学生たちでした。このプロジェクトでは、東日本大震災で被災した福島県南相馬市の小・中学生を対象とした、キャリア教育プログラムを提供しています。
被災地の小・中学生に向けて、仕事とは何か、持つべきキャリアとは何かを教える立場にあり、同時にプロジェクトの学生達自身にもキャリアデザインへの理解は大切なものです。教育にかかわる学生が多数いる中で、塾長の講演会は行われました。
日本の教育の目的について、塾長は、教育基本法の「第一条 教育の目的」を用いて説明されました。昭和22年の旧法にも、平成18年に改正された現行法にも、同じ文言が使われています。それは、「人格の完成をめざし」という言葉です。塾長はこの「人格の完成」という言葉に着目して講演されました。
20世紀のフランス人哲学者、J・マリタンは、個性と人格は違うと言っています。このことについて塾長は、個性とは個人的なもので、個人善に向かうものである。一方で、人格は共通善に向かうもので、そこには義務が伴うのだとおっしゃいました。個性を伸ばす為だけに生きているだけならば、最終的には個人主義、あるいはアナーキズムに陥る。しかし、人格の完成を目指すとき、個人的個性をはるかに超え、もと大きな共通善に向き合うことになります。個人的個性の伸展を否定するわけではありませんが、日本の誇るべき教育基本法には、もっと深く広範で宇宙的価値観が含まれています。それが人格の完成であるのです。
このような教育基本法が作られた背景には、戦後の日本の覚悟が見て取れます。当時の文部大臣は田中耕太郎であり、彼の草案が最終的に教育基本法となっていきました。そして、この田中はマリタンの哲学を、法学者として十分に学び理解していたのです。戦後の日本の国民教育の指針ともいえる基本法の中に、マリタンの哲学精神が溶け込んでいたことを、一体どれくらいの人々が知っているのでしょうか?また田中耕太郎の功績を、忘れてはならないのではないでしょうか。
もちろん個人的個性を否定しているわけではなく、我々の持っている個性を、共通善の為に、伸ばして行かなくてはならないと思います。自分さえ良ければいいという考えを持つのではなく、周りの幸せを願い、この世界をより良くするために、また誰かの為に自分にできることを求め続ける必要があります。
講演会の終盤、キャリアとは何なのかというお話しになりました。「仕事とは事に仕えることである」と塾長は教えてくださいました。石の上にも三年という言葉がありますが、自分に合う仕事を探すのではなく、仕事に適応できる自分を作り上げていかなくてはならない、と塾長は仰いました。そして、キャリアとは仕事のことではなく、自分の辿ってきた今までの道、すなわち人生のことを言うのだと、塾長は説かれました。
講演会の終わりに、正しいキャリアデザインを求めるならば、学生たちには「自由」でいて欲しいと塾長はおっしゃいました。自由とはただ奔放に生きることではなく、「今ここでなされる、唯一無二の決定が可能なこと」である。その為には、確固たる人格を持つことが必要であると、塾長は自らの恩師の言葉を借りて、学生達に呼びかけました。
今回の講演会に参加して、私の目指していた、人格とは単なる個人主義であったと思いました。個人主義にすがり付くのでは、人間的に小さくなる一方で、私自身の使命にたどり着くことはできません。人格の涵養には、他者の幸せを願う心を持つことが必要であると考える様になりました。自分の使命に到達する為に、今回学んだ本当の意味での人格を磨いていけるよう、努力したいと思います。