講演会
【レポート】2019年度東京講演会第3回
2020年2月21日
人間塾 第7期生 中川 慎一朗
(早稲田大学3年)
去る2月9日、第3回人間塾・東京講演会が行われました。
「現代社会における私塾の存在を考える 〜江戸から明治に偏在した塾の役割と意味〜」と題した本講演会は2019年度最後の東京講演会でした。当日は、参加者約40名がその時代の私塾と、現代の人間塾とを照らし合わせて、新たな学びを得る機会となりました。
講演は、江戸時代の藩校についてから始まりました。藩校はその藩ごとに特色があり、財政等によって教育内容も様々でバラエティに富んでいたとのことです。身分制度がはっきりしていた江戸時代では武士が最上位であるとされていました。よって、戦国時代とは異なり、武士は社会に対して戦闘的ではなく道義的な使命を負うため、「質的に変化すること」が求められました。その教育のために藩校が発達していきました。
その一方で、藩校での学びでは足りない武士や、身分に関係なく最先端の学問に興味を持つ者たちは、私塾に通いました。私塾で最先端の学問、特に西洋学問を学んだ者たちは、その知識や技術を「何のために」用いるのかということにこだわるようになります。と同時に、日本に脅威を与えかねない欧米に対抗するためには、欧米の制度や思想、技術などを受け入れなければならないという自己矛盾の中で、思想的な葛藤にも直面しています。
私塾の数が日本の中で最も多かったのは長州藩(現在の山口県)だそうです。中でも特に有名なのが松下村塾ですが、山口県出身の7期生冨岡平祐君は塾長から「吉田松陰の教えに従って生きていますか?」と問いかけられました。冨岡君の通っていた小学校でも、授業の中で頻繁に吉田松陰の教えが取り上げられていたそうです。そんな冨岡君は塾長からの問いかけに「そう生きられるように頑張ります!」と真剣に答えていました。
この私塾についての話の中で塾長は緒方洪庵について取り上げ、己を捨て人を救うために身を投じ、医師でありながらも武士の心を持った洪庵の素晴らしさをご教示くださいました。国のために自分の知識と財力を惜しみなく使い、若者をも教育したという洪庵の信念は、まさに私たち塾生が日々学んでいる人間塾と同じであると、強く確信しました。
また、明治23年10月発布、昭和23年に廃止になった教育勅語では、教育が目指すのは善き心の涵養であり、明治維新以降、自己中心主義が散見される世の中を憂う気持ちで発布されたものであることを知りました。この内容を学ぶ機会を、今まで私たちはほとんど与えられませんでした。
どれほど学歴を積んでも、学んだ証は卒業証書という紙切れ一枚です。しかし、その教育の真髄は「心」であると塾長は説かれます。これまで教育の場で学んだ授業の内容を仮に忘れてしまっても、辛いときにかけてもらった言葉、温かく接してもらった恩師の生き方が心に残るものです。人間として一番大切なものはこのような心の教育であり、学びであると塾長は私たちに繰り返し熱く語りかけてくださいました。教育の中で最後に残るのはただ一つ、「人の思い」であり「人間としての生き方」であるということを再認識できた時間となりました。