講演会
【レポート】平成29年度(2017年度)第二回東京講演会
2017年10月14日
人間塾 第5期生 石川凜太郎
(千葉大学4年)
10月に入り、秋の気配を感じ始めた10月1日、今年度2回目の塾長による東京講演会が開催されました。今回のテーマは「内的世界の光と闇 ~紫式部のGENJI物語~」ということで、平安時代に中宮彰子に仕えた紫式部の描いた源氏物語について、塾長独自の切り口からお話をされました。
源氏物語を描いた紫式部は漢文学者であった藤原為時の娘として生まれました。紫式部には弟がいたのですが、当時漢文をはじめとした学問は男のものという文化であったので、為時は紫式部の弟を後継者にしようと教育しました。しかし、紫式部は弟より出来がよかったので弟が学んでいることを傍らでじっと聞いており、その結果、どんどん吸収していきました。そのため為時は、「紫式部が男であったならば」と言ったといわれています。こうした背景があったからこそ紫式部は緻密な文学を描くことができたのでしょう。
源氏物語といえば、美男子である光源氏が繰り広げる色恋沙汰を描いた物語という印象が強いと思います。しかし、今回の講演では、塾長は光源氏の心理面について焦点をあてて読み解いていかれました。
塾長は数々の色恋沙汰を起こした光源氏には、エディプス・コンプレクスのようなものがあったのではないかと分析されました。エディプス・コンプレクスとは、ある王家に生まれたエディプスがその王家から追放されたのち、運命のいたずらで父を殺し、母と結ばれてしまう物語をなぞらえてフロイトが名付けたものです。男性が無意識に持つ父への対抗心と、母への女性としての憧れを指した言葉です。
光源氏は父の配慮だったとはいえ、父である桐壺帝に天皇家から出され、家臣の身分とされました。また幼いころに生母と死別しています。このような要因が重なり、父への対抗心が芽生え、母やその面影を見る女性に次々に惹かれていきます。中でも衝撃的なのは「若紫」の巻で、父桐壺帝の妻である藤壺女御と結ばれ、子をもうけてしまう話です。もちろん、その子は光源氏の子と明かせるはずもなく桐壺帝の子として育てられたことで、二人は罪の意識に苛まれます。
その後光源氏は天皇に匹敵する准太政天皇まで上りつめるのですが、それだけで終わらないのが紫式部のすごいところです。実は、光源氏と結婚していた女三の宮が柏木というほかの男との間に子どもを作ってしまいます。自分が桐壺帝にしたことが、時を経て、自身に返ってくる運命のいたずらをも表現しています。
今までの学校生活で文学としての源氏物語を勉強したことはありましたが、こうして登場人物の心理まで細かく見たことはなかったので、大変新鮮でした。心理学の知識が少しでもあれば、別の角度から物語を分析できると思うので、教養を身に着けることの大切さを改めて感じました。