講演会
【レポート】平成28年度東京3回シリーズ講演会第二回
2016年11月15日
人間塾 第4期生 梅山翔平
(筑波大学4年)
11月6日、秋晴れの澄み渡る空の下、仲野塾長による第二回東京講演会が行われました。今回の講演会のテーマは『アドラー~逆説のライフスタイル~』でした。講演会の前半ではアドラーの人生を辿りながら『共同体感覚』の成り立ちについて学び、後半では優越感と劣等感についてのお話がありました。
アルフレッド=アドラーは1870年オーストリアの裕福な家庭の次男として生まれました。しかし、幼くしてくる病となり、治りはしたものの病弱な子供時代を過ごしています。一方兄は健康に育ち、文武両道の立派な青年として成長していました。そのため、彼は兄に対して大きなコンプレックスを抱いて思春期を過ごすことになりました。この事が彼のパーソナリティの基盤となったようです。青年となったアドラーは勉強で身を立てる事を志し、猛勉強の末ウィーン大学医学部に入学します。そこでの勉強は彼にとって面白いものではなかったようですが無事卒業し、当初は眼科医として勤務しました。その後、ウィーン郊外の貧しい地域で診療所を開き、内科医として働くことになります。ここでの経験がアドラーにとって転機となりました。この地は貧しい地域だったため、移動サーカス団の団員達が診療所にかかることが多かったのです。彼らは生まれながらのハンディキャップを持っていました。しかし、それを努力によって克服したり、逆に強みとして活用することで強く生きていました。差別の横行する中、たくましく生きる彼らにアドラーは刺激され、人間が持っている劣等感、すなわちコンプレックスも個性になるという理論を発展させます。やがて人間の精神性に興味を持ったアドラーは精神科医を志すようになり、ジークムント=フロイトに師事しました。フロイトは無意識の解明を試みた人物であり、アドラーは影響を受けるものの、再びクリニックで診療を始めました。そんな中始まったのが第一次世界大戦でした。アドラーはそこで軍医として従軍しています。アドラーの仕事は、傷を負った兵士を戦地へ戻すかどうかという判断を行うことでした。この仕事にアドラーは悩まされます。彼が戦地へ戻っていいという判断をすれば、兵士は再び死ぬかもしれない世界へ戻されることになってしまうのです。そんな中彼はどうすれば戦わなくて済む社会を作ることができるかという事を考えます。そこで至った発想が「共同体感覚」という発想でした。共同体感覚とは他者と繋がっているという感覚であり、私達も身近な人には感じるものです。しかし、アドラーの言う共同体感覚は数十年も会っていなかった人との間でも存在しうるものです。それだけでなくアドラーはこの共同体感覚を会った事もない見知らぬ他人、地球の裏側の人間にまで持つことを求めています。この地球の裏側にまで及ぶ共同体感覚を全ての人間が持てば、全ての事は他人事ではなくなり、見知らぬ他人に爆弾を落とすような戦争行為は地球上から無くなるだろうと考えたのです。
人間は社会で生きる以上、優越感と劣等感を持って生きています。しかし、それが高じると、修正に骨の折れるコンプレックスになってしまう場合があります。優越感コンプレックスを持つ人は何に対しても優越感を感じたいと願う人で『もっと褒めてほしい』『もっと目立ちたい』『自分中心に物事が回ってほしい』と満たされることがありません。一方、劣等感コンプレックスを持つ人は自らのアイデンティティを適切に見出すことができず、『何をやってもダメな自分』であることを立証しようとします。自己否定をすることが目的となっているため、ギャンブルやお酒にのめり込み、失敗を重ねることで『何をやってもダメな自分』を証明するのに躍起です。この両者は正反対なように見えるが、ある点では大変似ていると塾長は仰いました。いずれも興味の矛先が自分にしか向いていない、という点です。正しい優越感を持つ人は、自分の得意な事柄を自覚し、その能力を他者に向けて発揮するために世の中に貢献することができます。
現代社会ではこのコンプレックスを持った人が増えています。言い換えれば人と繋がる事の出来ない、共同体感覚を持っていない人が増えているということです。私達は生まれた時から人に迷惑をかけていることが多々あります。それを許され、そして許して生きてきているのです。共同体感覚を持つ人であるならば自分の優越感や劣等感と正しく付き合いながら、人に何かを返して生きていけるはずです。しかし、アドラーは自分の知っている人だけでなく、世界中の人、さらには過去から現在、未来までこの共同体感覚を実践することを求めているのです。塾長は最後にアドラーのこんな言葉を取り上げました。
『自分の人生に本当に意味があると思える時だけ、人間は勇気を持つことができる』
私達が本当に世界を良くしたいのならば、人を許し信じる勇気を持つこと、そしてそれを貫いて生きる決意をしなければなりません。その為にも私達は自らの人生を肯定し、正しい優越感、劣等感を持てるように自らを見つめ直す必要があります。
日頃から人間塾で学んでいる自分と向き合うという行為が、アドラーの共同体感覚の考えによって、世界の争いを無くしていく事にも繋がりうる事を学ばせて頂きました。これからも、小さな一歩ですが真摯に自分に向き合っていきたいと思います。