心に響く 講演・セミナー集
伝える力、伝わることば~その1~
関西のある都市で教育委員長を務めていた時、
よく現場へ出向いたものでした。
そこで沢山の子どもたちと出会ったんです。
5月のある日に幼稚園を訪ねた時のことです。
その園は年中と年長の子どもが通っていました。
だから4歳児と5歳児くらいの子どもたちだと思ってください。
最初は子どもたちが遊んでいるところを、
私は教室の隅でジッと見ていました。
子どもたちはよそから来た私に興味を持っているから、
チラチラとこっちを見てくるんです。
でも私は教室の後ろで見ていましたから、ほとんど言葉を交わすことなく、
今度は園庭での自由遊びの時間になったんです。
みんなは鬼ごっこやドッジボールなんかして、
本当に楽しそうに遊んでいました。
私も庭に出て、子どもたちのことを見ていました。

そうしたら、3人の4歳児が後ろの方で、
何かヒソヒソと相談しているのが聞こえてくるんです。
男の子が2人、女の子が1人の3人組でした。
その女の子がこう言うんです。
「ねえねえ、あの人に逆上がりできるところみてもらいたい」って言っているのです。
どうやら、あの人とは私のことらしい。
そうしたら「ボクも見てもらいたい。ボクも逆上がりできるよ」と、
二人の男の子たちも言っているんです。
すると、「わかった。じゃあ私が頼んでみる」と女の子が決意して、
私のところにトコトコとやってきた。
そして女の子が私にこう呼びかけました。
「おじちゃん」って・・・
おじちゃん?また私の格好を見て、間違えているなと思っていたら、
もう一回、「おじちゃん、逆上がり見て」と言ってきました。
私はもちろん返事をしませんでした。
おじちゃんじゃないわ、お姉さんと呼びなさい!と思いながらジッとしていた。
そうしたら女の子は男の子たちのところへ戻って、
「ねえねえ、返事しないよ。間違ったかな」と相談しはじめた。
すると男の子が、「きっと間違ったんだよ。ボクが行くよ」と言って、
次に男の子が一人でこちらに歩いてきた。
そして、私に向かって「お兄ちゃん」と呼びかけてきたんです。
おじちゃんの次はお兄ちゃんかと思って、
また私は返事をしませんでした。
彼は戻って、「間違ったかな、ボク。あの人、返事しないよ」と報告しています。
そうしたら、もう一人の男の子がこう言ったんです。
「分かった!ボク、分かったわ!間違ってたんだ、ボクたち」と、
何か閃いた様子でした。
だから、何と言うのかなと思って、私はワクワクして待ってたんです。
彼はゆっくりと、そして自信満々な様子で近づいてきました。
そして・・・
「おばちゃん」と呼びかけてきた。
う~ん、それは決して間違っていないんだけど・・・
おじちゃんとお兄ちゃんって言われて腹が立ってるから、
おばちゃんでは返事するもんか!とジッとしていたら、

もう一度「おばちゃん、見てー」と言ってきました。
それでも返事をせずに立っていたら、
彼はしぶしぶ輪の中に戻っていきました。
「おばちゃんって言ってもだめだよ」と話して、
皆で考え込んでいるんです。
面白いことに彼らは決して諦めない!
その時、女の子が、「分かった。こうしよう!」と言い、
皆で相談しはじめました。
もはや私も、次はどうくるのだろうかと期待して待っていたわけですが(笑)
さあ、この子たちが、私に呼びかけた言葉は、一体何だったと思いますか?
(続きます)