心に響く 講演・セミナー集
人生を語り継ぐ~その2~
これは他人には聞けません。
血のつながったおばあちゃんだから聞けることなのです。
こんな不躾な質問も許されるであろうと思い、
思い立って聞いてみました。
祖母の話も、だいぶ晩年に差し掛かった頃です。
80年近い人生を聞いてきたあたりで、
「ところでおばあちゃん」と。
「1つききたいことがあるんです」と。
「何?」と、祖母は言いました。
「そろそろ人生の終盤に差し掛かって、
もしかして先は短いかもしれないし・・・。
それを前にして、人生は幸せでしたか?」
と聞いたわけです。
そしたらまずこう言いました。
「まだ死んでないのにそういうこと聞くの?」
「それあなたの心理学の研究?」と聞かれたんです。
「実験のモルモット?」とも聞かれました。
実験とか研究って聞いたら、
祖母の口からはモルモットって言葉が出ますからね。
「申し訳ないけど、ちょっとモルモットになってよ」
と言ったんです。
「まあ仕方ないね」って。
祖母はずーっと考えこみました。
「うーん、苦労したわ」と、
つらかったし、いろいろとしんどいこともあったと。
実は子どもが4人いたんですけど、
私の叔母にあたる一番末の娘を、
小学校6年生のときに病気で亡くしていました。
私が見たこともない叔母のお墓参りに、
よく祖母と行っておりましたけど、
お墓の前に行ったら、
幼くして亡くした娘の前で、
時折、涙を流しておりました。
だからそれも本当につらかったと。
でも最後にこう言ったんです。
「でも私幸せだったわ」と、
「この人生でよかったと思う」と。
あー幸せだった、この人生でよかったわって思いながら、
逝ったということは、
残されたものには大いなる希望です。
もっとああしたらよかった、
こうしたらよかったって元気なうちは誰でも思いますけど。
でも全部ひっくるめて幸せだったのよ、
と言ってくれたあの声と言葉を思い出すと、
よかったのかなと、慰められます。
私とのあの3週間近い作業、
幼いころからの話を語って孫に聞かせ、
そして最後、「幸せだったのよ」と、
自分の人生をとりまとめて眺めてみること。
これは祖母にとっても、
意味のある作業だったと思います。
ですから自分はちょっと自負しているんです。
いいことをしたんじゃないかなと。
(続きます)