心に響く 講演・セミナー集
迷い道、出口は人との出会いから~その1~
人間塾のお話をする際に、「出会い」というものを
とても大切にしていると申し上げているのですが、
それについて、例えばこういうお話があります。
今からもう20年近く前。
私はアメリカに留学していて時々日本に帰ってくる
という生活をしていました。
そのちょうど日本にいる時に、知り合いのお医者さまから
電話がかかってきたんです。
「ちょっと家でお昼ご飯用意するから、
長男に会ってくれないか」って、
その先生がおっしゃるのです。
おいくつですか?とお尋ねしたら18歳でした。
じゃあ、高校3年生ですか?と聞くと、
優秀な公立の高校に一番で入学したのだが、
入学式に行ったきり学校に行っていないって言うんです。
だから高校1年生1日だけ行って、その後ずっと不登校で、
学年的には高3なんだけど1日も学校行ってないので、
高校生と言えるのか、フラフラしている。
そんな状況なんだよって電話で簡単に説明を受けました。
その先生はとっても立派な方で、
地域でも多くの方に慕われているお医者さまですから、
その方の息子さんが、まさか高校1日だけ行って
行かなくなったなんて…。
ちょっと面白そうだなと思って、私、興味津々で
先生のお宅をお訪ねしました。
そうしたらご夫妻と次男坊さんがお出迎えしてくれました。
あれ、主人公はどこ?と思ったら、いないんです、そこに。
食事の場に着きまして、
「仲野さん申し訳ないね、ちょっと待ってね、おーい!」
って階段の上に向かって呼んでるんです。
おーいって言っても全然返事がないから、
ドンドンドンってお父さんが上がっていかれて、
ドンドンってドアたたいているんですね。
何が始まるのかと思って待っていましたら、
5分くらいして、ふてぶてしいのが降りてきたんです。
階段をドスン、ドスン、ドスン…。
もう、我ここにありみたいな感じで存在を誇示して、
ドスンドスン降りてくるんです。
それで、私がこんにちはって言ったら、「あ?」って。
どうして顎でしゃくるんですかね、悪い男の子って。
だから、ちょっと怖そう…とか思いながら、
いただきますってお昼をいただいていても、
彼は一言もしゃべりません。黙々と食べている。
で、親は気を遣って「今日はわざわざ来てくださったのよ。」
なんて言うんですけれども、「ああ?」と答えるだけ。
ああ?か、うう?しか言わないんですね。
なんか異様な雰囲気だなと思いながら、
全部お食事が終わって、ちょっとお茶にしましょうと
いうことになりました。
でも面白いんです。この彼は。
ええ?とか言ってるのに席を立たないんです。
ずっと座っているんです。
お茶が出てきてもお茶もちゃんと飲んでいるんです。
で、また、ええ?とか言ってるんですね。
変わった子だな、興味あるのかな?と思いながら
眺めておりました。
そしたら、話はしっかり聞いてるようなんです。
反応はほとんどしませんけど。
私は、いろいろと彼に質問してみたのですが、
はい、はい、いいえ、はい、しか言わないので、
これは難しいことだと思いつつ、もう話も尽きましたので、
そろそろ失礼することになりました。
そしたら皆さんお玄関まで送ってくださって、
その長男もやってきました。礼儀だと思ったんでしょうかね。
で、私は靴を履きながら、ほとんど90%冗談で、
お愛想でこう言ったんです。
「君、興味があったらアメリカに来ていいよ。」って。
すると彼が「はい」って言ったんです。
絶対来ないだろうなって思って安心して言ったんですが、
はいって言うんですね。
それではありがとうございました、ごちそうさまでした
ってお家を後にしました。
そして、私はアメリカに戻ったんです。
すると、アメリカに戻って1カ月たったころでしょうか、
突然電話かかってきたんです。
例の長男から…。
(続きます)