心に響く 講演・セミナー集

ジュニアの夢〜その4〜

じっと考えている私を見て、彼は「僕はジュニアだよ」って言ったんです。私は、そこに居たレジーナさんの顔を見ましたら、彼女もニコニコ笑って、「彼、恰幅がよくなったからわからないわよね」と。そして、このジュニアがNGOカパティの奨学金を活用して大学進学し、卒業後はある会社で仕事をしていることを二人から聞かされました。

私がセブを訪ねていることをレジーナさんから聞いたジュニアは、わざわざ会いに来てくれたのです。彼の話を聞きながら、後ろにスリムな女性が立ってることに気づきました。「彼女はどなた?」と尋ねたら、「僕の妻です」って。彼女もNGOカパティの奨学金で大学を卒業したとのことでした。「僕たちは二人共、カパティの奨学金プログラムの卒業生です。僕はコンピューターのエンジニア。妻は経理の専門で今銀行に勤めています。カパティの奨学金のおかげでスラムを出ることができました。カパティの集まりで僕たちは知り合い、そして結婚しました。子どもはまだいません」。

カパティの集まり・・・。これはとても大切なミーティングなのです。経済的に苦しい状況にいる学生たちは、常に心細い思いをして生きています。時には自分がとても小さな存在に思え、生きている価値さえないような思いにかられます。ですから、同じような境遇の学生たちは、折に触れて教会に集まり、レジーナさんの指導の下、人生を語り合います。「なぜ生きているのか」「なぜ学ばなくてはならないのか」「学んだ後、どのような人生を生きていくのか」などを、共に考え、悩み、苦しみ、答えを追い求めるのです。

要するに、自分たちの苦しく厳しい出生の背景を、決してその中に埋もれるのではなく、それを乗り越えて生きていくために互いに支え合い、励まし合うのです。今私が塾長をしている人間塾と同じような活動です。人間としての生き抜く力、人生を肯定的に見つめ直す力を、若者たちがしっかりと身につけていくような人間教育です。

このようなミーティングの場で、ジュニアは生涯の伴侶にも出会いました。彼はこう言ったんです。「カパティを作ってくれてありがとう。奨学金プログラムを作ってくれてありがとう。まず、スラムの生活から離れることができました。自分の仕事を通じて身を立てることができました。愛する妻と出会えました。本当の生年月日もわからない、親から売られた自分が、こんな幸せに出会えました。ありがとうございます」と。

このような人との出会いがあるから、私は人と関わる仕事が辞められないのです。教育にかかわる仕事は素晴らしいです。その人の中にある幸せの種に水をやることができるからです。時折、ジュニアの笑顔を思い出します。はにかみと懐かしさ、誇りとユーモアのある笑顔を。

(了)

支え合い、励まし合う




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